中国に進出した日本企業が、今、大きな壁にぶつかりつつあります。
それは、「中国撤退の難しさ」
人件費や原材料費の高騰、環境問題、政治的な日中関係の悪化など、さまざまな情勢を考え、中国撤退を考える日本企業も増えつつあります。
ですが、そうした企業が「スムーズに撤退できない」という問題が浮上しています。
日本企業向けの「中国撤退セミナー」まで開催されるほど、大きな関心を集めている撤退事業。
今、一体何が起きているのでしょうか?
税金の追徴、設備の譲渡を要求される?
中国撤退の難しさを考える時、一番に指摘されるのが「税金」の問題です。
撤退を表明した途端、税金の申告漏れがないか厳しくチェックされたり、現地で整備した設備などを譲渡するよう要求される…といった出来事があります。
ただし、これをもってして「中国はあくどい、がめつい」と考えるのは、少し違います。
確かに日本の常識から言えば、私企業が投資して作った設備や財産を、「撤退するなら」と国が譲渡を要求することは、常識はずれだと言えるでしょう。
ですが、これは自由経済・民主主義国家の常識です。共産主義国家である中国では、基本的な考え方が異なるのです。
確かに中国経済は、市場はほとんど自由化され、解放されています。
ですから、日本やアメリカなど民主主義国家と、ほとんど同じような感覚でビジネスを経営できます。
ですが、中国の本質は共産主義です。
共産主義にもいろいろな種類がありますが、その基本的な考え方は、「個人の私有財産を禁止し、全ての財産を社会で共有する」というものです。
つまり原則的には、中国で投資を行い作った設備や、中国で築いた財産などは、それを作った私企業のものではなく、「中国社会全体=中国共産党のもの」という考え方になるんです。
そのため、撤退の際にたくさんの税金をかけられたり、設備などの譲渡を迫られるんですね。
日本の常識では「常識はずれ」に思える要求も、中国(共産主義国家)にとっては、むしろ「当然」。
今まで自由な経済行為を認めてきたことこそ、イレギュラーだと言えるのです。
こうした社会背景や、社会の根底を流れる思想の違いを考えておくことも、中国ビジネスには非常に重要になります。
現地従業員から補償金を要求される?
撤退する日本企業に「要求」を突きつけるのは、中国政府だけではありません。
現地で雇用した従業員たちからも、補償金を求められることが多くなります。
金額の相場などは、企業規模や業種など、個々の条件によって変わってきますが、決して安い出費にはならないでしょう。
ここには、日本人と中国人の「考え方の違い」も、大きなギャップになっていると思います。
日本人の場合、「会社をたたむから、解雇しなければいけない」と会社から伝えられた時、「仕方ない」と思いますよね。
自分の収入が無くなってしまうリスクもありますが、かといって、会社に対して退職金や補償金を、強気に要求する人は多数派ではないと思います。
一方、中国の場合、「自分の権利や利益は、自分で守る」という考え方が基本にあります。
ですから、会社が撤退する、働く場所が無くなるのであれば、自分の利益は最大限、自分で守らなければいけない…となります。
そのため、できる限り多くの補償金を勝ち取ろうと、経営サイドに働きかけるんですね。
どちらの考え方が良いか、という問題には、簡単に答えは出せないでしょう。
日本人的な慎みの姿勢が「美しい」と評価される向きもありますが、中国人的な「戦う姿勢」が、グローバル・スタンダードであるとも言えます。
ブラック企業による不当解雇なども社会問題になりつつある今、日本人的な美徳をビジネス・シーンでどう捉えていくのか…。
私たちは一度、よく見つめなおすべき時期に来ているのかもしれません。