「中国の方言は違いがすごくて、北京語と広東語では意思疎通できない」とよく言われます。
これは誇張でもなんでもなく、事実です。
しかし、このことは、なかなか日本人には理解できません。
東京と大阪では方言に違いはあっても、意思疎通ができないことはないからです。本当にそんなことあるのかな、と思ってしまうでしょう。
ただ、沖縄方言(ウチナーグチ)を例に出せば、なんとなくわかると思います。沖縄方言をそのまま聞けば、ほとんど外国語。意思疎通が困難なほど違いがあります。このことは、中国の方言を理解する上で、とても役に立ちます。
琉球王国は距離的にも日本と離れていましたし、独立した文化を育んできました。当時の琉球王国は日本からすれば「外国」。つまり、琉球語は「外国語」でした。ですが、現在の沖縄は日本の一部ですので、言葉が違っていても「方言」に位置づけられています。それでも、かつては外国語だったわけですから、言葉に隔たりがあるのは当然です。
中国も同様です。今でこそ中華人民共和国としてひとつにまとまっていますが、かつてはそれぞれが外国。春秋戦国時代、上海の当たりは「申」と呼ばれ、三国時代、広東省の当たりは「呉」と呼ばれていました。では、なぜそんな状況でも交流できていたかというと、漢字のおかげです。
漢字は音ではなく意味を表す表意文字。
音は、さまざまな国の言葉に置き換えて活用できます。そのため、それぞれ発音が大きく異なる国同士でも、交流ができたわけです。事実、古代の中国と日本ですら、漢字による筆談を通して交流ができていたぐらいです。
では、現代中国ではどうなっているのでしょうか?やはり、各地の人々は筆談をして意思疎通しているのでしょうか。そんなわけありません。
現在は共通語があるため、それをもって全中国どこでも話が通じるようになっています。1949年、日本との戦争や国民党・共産党による内戦を経て、中華人民共和国が誕生しました。
このとき課題として上がったのが、言葉の問題でした。
それぞれの地方で言葉にこうも隔たりがあっては、新中国の国家運営に支障を来たす。毛沢東率いる共産党政権はそのように考えたのです。
そこで、北京語をベースにして「普通話」(プートンファ)が創造されました。
この当たり、少しややこしいので整理します。
私たち外国人はよく中国の共通語を「北京語」といいます。これは間違っていないのですが、正解でもありません。北京語はあくまで方言のひとつ。これをベースにして作られた「普通話」こそが共通語です。といっても、通常はそこまで細かく解説した方が、逆にややこしくなるので「北京語」で十分です。
中国では、教育現場でこの「普通話」を勉強させます。また、テレビ放送はすべて「普通話」で放送されています。そのため、現在はどこへ行っても通じます。
ただ、上海人が地元で話すときは上海語を、広東人は広東語を話します。つまり、彼らはある意味バイリンガルのようなものだと言えるでしょう。
ちなみに、「普通話」の「ニーハオ」は、上海語で「ノンホウ」、広東語で「ネイハウ」と異なります。ただ、これらはまだ共通性があります。これが例えば、「私は日本人です」になると、「普通話」では「ウォ・シー・リーベンレン」ですが、広東語では「ウォ・ハイ・ヤッパンヤン」と思いっきり違います。意思疎通はまず無理といって良いでしょう。
私たち外国人が中国語を学習するときは、「普通話」になります。これさえ学習しておけば、中国大陸だけでなく、香港、台湾、シンガポールでも通じるからです。