中国メディアはすべて中国政府の管理下にあります。その構造を読み解いていきます。
中国の国権の最高機関は「国務院」で日本の国会に相当します。
この国務院が直轄するメディア機関の一つが新華社で、中国を代表する通信社となっています。この他、「国家広播電影電視総局」という省庁があり、日本の総務省に当たるメディアの監督省庁です。この総局が監督している重要メディアが、中国新聞社(通信社)、中国中央電視台(CCTV、国内全域のテレビ放送)、中国国際放送局(海外放送)、中央人民広播電台(国内全域のラジオ放送)などです。
これらのさらに傘下に地方のテレビ局や新聞社があるという構造になっています。なお、人民日報は中国共産党の機関紙なので、政府の機関ではありません。こうした構造の中、「中国政府に不都合なニュースを流すことはまかりならん」という通達が下まで流れているのです。
情報の統制と発信を担う重要な職務のため、中国メディアに関わる職員はエリートで構成されています。アナウンサーは大学教授に匹敵する職位にあり、タレントに近い日本のアナウンサーとは役割がまったく異なります。
また、メディアを歴任してから、中央政府の幹部に抜擢される例も珍しくありません。日本外交に明るい唐家セン(元外務大臣、元国務委員)は、中国国際放送局日本語部の出身です。また、現在の最高幹部の一人で序列第5位の劉雲山は、新華社の記者出身。その流れから情報関連の職務を歴任し、中央宣伝部長のときにはインターネット、言論や出版の統制を推進しました。言論統制を推進してきた人物が最高幹部なわけですから、中国メディアが自由化するのは現段階では考えにくいです。これらを見れば、メディアの重要性と厳しい統制が伺えます。
中国ではFacebookもTwitterも使えない
現在の日本ではFacebookもTwitterなどのSNSが浸透し、ライフスタイルに欠かせないツールになってきています。これは中国でも同様なのですが、世界で最も普及しているFacebookやTwitterはアクセスが禁止されていて使うことができません。“国家転覆”を恐れて中国政府が禁止しているからです。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、周知の事実です。
SNSは単なるコミュニケーションツールの枠組みを超えた破壊力を持っていることを私たちは知っています。
2011年、チュニジアで起こった「ジャスミン革命」を機に、中東各地で政変や革命が起こり、独裁的な政権がいくつも崩壊しました。このとき革命の動きを加速させたのがSNSでした。政府への不満などを書いたTwitterのつぶやきは、政府が検閲する暇を与えず、瞬時に広がっていきました。そしてエジプト、リビア、シリアで政権が崩壊。シリアのように今も内戦が続いている国もあり、SNSが持つ破壊力に世界中が驚きました。
中国よりもはるかに独裁的な中東諸国でさえ、政権が崩壊したのです。中国政府上層部が青ざめたことは容易に想像できます。このため、中国ではFacebookやTwitterにアクセスできず使えません。
社会主義である中国にとって体制の維持は国是といえます。そのため、インターネットの検閲は当たり前のように行われています。
たとえば、「文化大革命」「台湾独立」「チベット独立」といったキーワードはNGワードになっており、検索エンジンで探しても関連サイトが表示されないようになっています。
こんな状況ですから、情報の独立性を重視する西側のメディアやサービスには、何倍もの警戒心を持って検閲しています。2010年に発生した「グーグル事件」はその象徴で、検閲を強める中国政府と対立したグーグルが中国から撤退しました(後に復帰)。こうした経緯から、中国のITサービスは中国独自のものが多いのです。
中国最大のSNS「微博」(ウェイボー)
前述したとおり、中国では世界的に有名なITサービスは制限されており、そのほとんどが独自のものです。Twitterの代わりに普及しているのが「微博」(ウェイボー)というサービスです。日本のメディアでは、よく「中国版Twitter」と紹介されています。「微小博客」(ウェイシャオ・ボークー)の略で、「マイクロブログ」の意訳語です。Twitterも登場した頃は、マイクロブログと呼ばれていました。中国の場合、外来語はこのパターンで中国語化されていきます。
機能はTwitterとほとんど同じです。「微博」は、さまざまなサービス会社がリリースしていますが、「新浪」(シンラン、SINA)という会社の「新浪微博」が最もユーザー数が多いので、「新浪微博」=「微博」と考えられています。2012年12月時点で5億アカウントを誇ります。個人利用の他、芸能人のプロモーション、メディアや政府による情報発信ツールとしても利用されています。爆発的にユーザー数が拡大しており、もはや第3のメディアともいえる状況になっています。
「微博」がこれだけ大きくなると、いくら中国政府が検閲しているといっても限界があります。当然、情報統制に大きな打撃を与える事例がいくつも出ています。2011年には高速鉄道列車の衝突事故がありました。
中国政府は安全管理や技術がずさんと思われることを恐れて情報統制をしましたが、統制し切れず情報は国内にそして世界中に発信されました。これを発信したのが他でもない「微博」です。さらに、2008年の北京オリンピック前にチベット騒乱が起きました。本来は第一級のタブーにも関わらず、「微博」を通して瞬く間に世界中に広がっていきました。
現在でも、各地のテロ事件などが「微博」によって広がっています。
中国が今後どうなっていくのか、「微博」に注目していると貴重な情報が得られます。